8月27日、パルニサマウンテンバイク会場にて女子クロスカントリーのレースが行なわれた。この競技には日本から中込由香里選手(team SY-Nak SPECILIZED)が出場。中込選手はソウル、バルセロナ、アトランタ、シドニーと、これまで4度に渡って五輪出場に挑戦してきた。最初の2大会はロードで、最近の2大会はマウンテンバイクで。そして、5度目の挑戦となった今大会、6月も終わりになって女子クロスカントリーの出場枠が与えられ、晴れて五輪出場が叶うこととなった。
まずはコース説明から。1.3kmのスタートループを走行した後、山あり谷ありの6kmの周回コースを5周回、計31.3kmのコースとなっている。周回コースを言葉で説明するならば、まず2.4kmほどが上りで、そこから0.7kmの区間で標高差80mを一気に下る。そして1kmで100mほど上る急坂があり、それを下ってスタート/フィニッシュ地点というプロフィールだ。
それほどテクニカルなコースというわけではないが、土が乾燥して浮いた状態になっていることも相まって、1周のうちに3ヶ所ほどバイクを下りて担いで上らなければならないような箇所がある。
スタート時の気温は22度とのこと。でも午前11時スタートなので、時間が経つにつれ、気温が上がっていくことが予想される。カナダのサイダー選手なんかは脇から背中にかけてジャージに何箇所も穴を開けての暑さ対策をしていた。最初見た時、いつ、どこで落車した?と思ってしまった。
それからルールの説明をば。マウンテンバイクのレースには、トップの選手の1周目のラップタイムを基準として、基準タイム+80%で周回しないとレースから除外される80%ルールがある。また、先頭の選手にラップされてしまった時点でレース終了となる。
出場選手は30名。ゼッケン番号1ケタの選手については、現在の世界ランキングがそのままゼッケン番号になっているそう。すなわちゼッケン番号が若い選手が注目株ということだ。また、ゼッケン番号30番のパオラ・ペッツォ(イタリア)はアトランタ大会、シドニー大会で金メダルを獲得している。
10人ずつ縦3列に並んで(並びはランキング順)いっせいにスタート。スタートループは周回コースよりもちょっと幅が広くなっている。スタート後に集団の背後から映した映像に中込選手の姿があった。他の選手と比べ、小柄で華奢という印象。
まず先頭に飛び出たのはカナダのサイダー。すぐ後ろに同じくカナダのプレモンがつけている。その後ろ、集団からちょっと飛び出した形になっているのがランキング1位、優勝候補筆頭のダール(ノルウェー)。あとはまだ集団という感じだ。
カナダワンツーのまま周回コースへ。そして上りの入り口、まだ道幅が比較的広い箇所で、ダールがカナダの2人に追いつき、追い越し、先頭に出た。ダール、プレモン、サイダーの3人がいて、背後に集団がいくつかという様相。
斜度の一番きついところでは3人ともバイクを下りて担いで上る。斜度だけの問題ではなく、土が浮いててグリップが得られないってこともあるらしい。
この後の下りでも、タイトで右に木の幹が張り出している部分があり、なかなかにして難儀だ。足がフレッシュなうちはよかったが、何周回か重ねてからは奥にある太い幹に緩衝材を巻いたものに突っ込みかける選手が頻出した。
ダールが快調に飛ばす。まずは3番手のサイダーとの差がちょっと開きだし、最初のうちはそれほど引き離されずに追っていた2番手のプレモンとの差も開いてきた。1周終わった時点でダールとプレモンの差は32秒、ダールとサイダーの差は1分1秒となっていた。以下、1分41秒差でドイツのシュピッツ、1分47秒差でポーランドのウロズチョフスカという順でスタート/フィニッシュ地点を通過した。中込選手は6分37秒遅れの29位で通過している。
トップで快調に飛ばすダールは、今年絶好調らしい。出場したワールドカップレースで全戦優勝。余談ながら、ダールが欠場した1戦で優勝したのが7番をつけたロシアのカレンチエワなんですって。
2周目を終えてダールとプレモンの差が1分強に広がった。ダール自身は1周目とさほど変わらないラップタイム/平均速度で2周目を終えている。2大会連続制覇のペッツォはまだ15位以内には見当たらない。中込選手は若干順位を上げ、26位で3周目に入った。トップとの差は11分14秒。前の選手とはそれほど離れてはいないらしい。
デンマークのアンデルセンが落車。肩のあたりを押さえていたので、もしかすると落車した際に鎖骨をやってしまったのかもしれない。アンデルセンはここでリタイヤ。ここまでにスロバキアのステフコワ、それからイタリアのペッツォがリタイヤしている。かと思えばポーランドのサドレツカがいったんバイクを下りて、逆向きに戻ろうとするシーンが映った。バイクトラブルだろうか。
トップのダールが4周目に入った。ジャージの右脇に穴が開いているのは落車か何かのアクシデントがあったのか。
2位のプレモンとのタイム差は1分25秒。あまり開いてはいない。
3位のサイダーがトップから2分20秒ほど遅れてスタート/フィニッシュ地点を通過する頃、トップのダールにアクシデントが。映像が切り替わってみたら、ダールがバイクを下りて押していた。落車した際にリアディレーラーがずれてしまったようで、この後も急な上りに差し掛かった際にチェーンが内側に落ちるトラブルに見舞われた。ロードレースだったら機材を交換すればいいだけのことだが、マウンテンバイクの場合、パンクでも機材トラブルでも外部からサポートを受けることができず、自ら対応しなくてはいけない。ゆえに多くの選手がパンク修理のための道具をサドルバッグなどに入れて走っている、というのはこの際あまり関係ない話。
そんなこんなのトラブルがあって、4周目のハーフラップで2位のプレモンとのタイム差が1分強にまで詰まってきた。ハーフラップポイント手前でドイツのシュピッツがサイダーを抜き去り、3位に上がってきた。
この頃中込選手は4周目に入ったところだった。また2つ順位を上げて24位に。
皆さん、そろそろ足に来ているのか、あっちゃこっちゃで転倒したり突っ込んだりするシーンが見られた。
ラストの周回に入った。気になるのは2位のプレモンとのタイム差だ。ハーフラップポイントでは1分9秒だったタイム差がちょっと詰まって59秒。以降も同様のトラブルがあるようならまだまだわからない。3位のシュピッツは1分54秒遅れ、4位のサイダーは2分10秒遅れという状況。5位にはオランダのフィンクが上がってきた。
ダールはチェーンを気にして軽いギアでくるくる回している。ちょっとでも傾斜が急になると、バイクを下りて押す光景が見られる。おっと、ダールがコーナーでタイヤを取られて転倒。しかしこれは大きなアクシデントにはならなかった。
ハーフラップポイントでのプレモンとのタイム差は43秒。だいぶ詰まっては来たが、何もトラブルがなければこのまま逃げ切りが濃厚となってきた。
どうでもいいが、選手の後をバイクカメラで追うのは臨場感があっていいとは思うんだけど、個人的にはけろけろしそうになるのでちょっと勘弁してもらいたい。
残りの距離が短くなってきた。コース脇の観客からはすでに「ブラボー!」の声がかかっている。
ゲートが見えてきた。観客からノルウェーの旗を受け取って、後ろを一度確認、両手で国旗を高く掲げ、満面の笑みを浮かべてゴールに飛び込んだ。ノルウェーのダール、自身初のオリンピック金メダル獲得だ。
2位のプレモンが入ってきた。何人かの観客とハイタッチを交わしてからゴールした。ゴール後、ダールとプレモンがしっかりハグ。お互い笑顔で健闘をたたえあった。
3位にはドイツのシュピッツが入った。シュピッツもとても満足そう。ゴール手前でガッツポーズをして見せてからバイクを下り、両手でバイクを高く掲げてゴールした。
NHK BSの放送では見られなかった表彰台の写真はこちら。
中込選手は、コースの終盤でラップされ、最終周回に進めなかった。完走ならず22位という結果に終わった。
いやしかし、驚いたのは自分の頭の悪さだ。
中込由香里選手は私と同じ38歳。もちろんトップアスリートと私を比べるべくもないが、その年齢でコンディションを維持するのは大変なことだろうなぁと思う。そんなこんなで思い入れを持って見ていたんだけど、中込選手に関してはそれ以上の知識は何一つ持っていなかった。というか、いないと思っていた。
が、いざBSでの放送が始まって、チームの監督で中込選手のご主人でもある中込辰吾さんが紹介された瞬間に頭の中に「野辺山」「ペンション」という単語がぱかっと浮かんだ。そうそう、去年の3月だかまでファンライド誌で連載を持っていたご夫婦だったんだ。毎号、大きな木を中心に野辺山の四季を写し取った写真が掲載され、それがとても印象的だった。一度そのペンションに行ってみたいなぁとすら思っていたのに、情報がリンクされていなかったんですね。そーだったのかー。勝手に目から鱗状態です。ペンションを営みながら五輪代表の座を獲得するのは容易なことではなかったんじゃないかと思う。完走できなかったのは残念だけど、集団後方からのスタートだったにも関わらず、徐々に順位を上げて底力を見せた。とりあえずお疲れ様でしたと言いたいです。
それにしても外国の女性の勇気ある姿を見ていると、ちょっとデブぐらいで水着も着られないわが身が恥ずかしくなるよ(笑)。 (8月30日更新)
順位 | 名前 | 国 | タイム |
---|---|---|---|
1 | Gunn-Rita Dahle | ノルウェー | 1.56.51 |
2 | Marie-Helene Premont | カナダ | 0.59 |
3 | Sabine Spitz | ドイツ | 2.30 |
4 | Alison Sydor | カナダ | 2.56 |
5 | Elsbeth Van Rooy-Vink | オランダ | 4.50 |
6 | Maja Wloszczowska | ポーランド | 5.17 |
7 | Ivonne Kraft | ドイツ | 8.27 |
8 | Laurence Leboucher | フランス | 8.43 |
9 | Mary Mcconneloug | アメリカ | 9.21 |
10 | Lisa Mathison | オーストラリア | 10.10 |
22 | 中込由香里 | 日本 | -1Laps |
女子クロスカントリーの翌日、同じくパルニサマウンテンバイク会場にて男子クロスカントリーのレースが行なわれた。この種目には日本から竹谷賢二選手(TEAM FORD SPECIALIZED)が出場。自身初のオリンピック出場となる。
まずはコース説明から。女子と同様、1.3kmのスタートループを走行した後、山あり谷ありの6kmの周回コースを周回する。周回数は、女子が5回だったのに対し、男子は7回。計43.3kmのコースとなっている。
女子の場合、1周のうちに3ヶ所ほどバイクを下りて担いで上るような箇所があったが、男子の場合はバイクを下りずにクリアできる、らしい。「らしい」というのは放送がないために自分の目で見たわけじゃないからだ。女子をあれだけ長くやっといて、男子は皆無ってのはないだろう。見たいじゃないか。
天気は例のごとく晴れ。この日は最高気温30度で、時折強く吹く北風の影響でそれほど暑くは感じられなかったそう。
ルールに関しては女子のレースでも説明したけど、もう一度書いておきます。マウンテンバイクのレースには、トップの選手の1周目のラップタイムを基準として、基準タイム+80%で周回しないとレースから除外される80%ルールというのがある。また、道幅の狭い箇所もあって、トップが周回遅れの選手に引っかかって後続に追いつかれてしまう可能性もあるため、先頭の選手にラップされてしまった時点でレース終了となる。
スタート後、有力選手達が飛び出して先頭争いを繰り広げた。スタートループの幅が狭まっているところで、前が詰まり、ヘスエダル (カナダ)、ザウザー(スイス)、フリシュクネヒト(スイス)、キリーン(イギリス)らが後続に抜かれて順位を落とした。
周回コースに入り、2つ目の上り(多分)で5〜6人の先頭グループからアプサロン(フランス)、ブイ(イタリア)、ブレンジェンス(オランダ)の3人が抜け出した。この3人に、2周目でエルミダ(スペイン)、ペロー(フランス)、3周目でシドニー大会の金メダリスト、マルティネス(フランス)が加わり、先頭グループは6名に。マルティネスがアタックし、一時はトップに立ったが、その後失速。先頭グループからも脱落し、結局5周目でリタイヤすることとなる。
4周目でエルミダが動いた。最初の上りで一気に加速。これを追ったのはアプサロンとブレンジェンスの2人。3人は2つ目の山の下りで合流し、後続に30秒以上の差をつけた。
5周回目の最初の上りで、今度はアプサロンが残りの2人を引き離しにかかった。その周回が終わった時点でアプサロンと2番手のブレンジェンスの差は31秒。追い上げの途中で落車してしまったエルミダはブレンジェンスからさらに30秒ほど後ろに位置していた。
次の周回で、エルミダがブレンジェンスに追いついた。2人は先頭のアプサロンを追ったが、この時点でのタイム差は1分15秒。最後の周回に入ってもアプサロンのペースは落ちなかった。そして、アプサロンは後続にジャスト1分の差をつけて、右手でフランス国旗をかかげ、左手で天を指差しゴールした。アプサロンはこの勝利を3年前に亡くなった、一番のサポーターであり、ファンであった父親に捧げたそうだ。シドニー大会の金メダリスト、ミゲル・マルティネス(フランス)はDo not Finishedに終わったが、同じくフランスのジュリアン・アプサロンが勝利し、フランスにアテネ五輪の自転車競技初の金メダルをもたらした。
その頃後続ではエルミダがアタック。そのまま逃げ切ってシドニー大会で4位に終わった雪辱を果たした。土肥志穂さんのblog(フランスでバカンス中の土肥さんはフランス国営放送での中継を見て途中経過をアップしてた。テレビ画面の写真も載ってるよ)によると、エルミダはゴール手前で周囲を銃で撃つ格好をし、ゴールしてから自分を打ち抜いて倒れるパフォーマンスをしたそうだ。このご時世、物騒っちゃ物騒だが、嫌いじゃない、こういうパフォーマンス。銅メダルに終わったブレンジェンスはがっかりといった様子だった。
日本の竹谷賢二選手は終盤まで健闘したが、6周目に転倒し、崖から落ちるというアクシデントに見舞われた。このアクシデントでタイムをロスし、80%ルールにより、最後の1周を残してゴールすることはならなかった。これさえなければ完走は果たせたはずなのに。残念です。オフィシャルサイトでは当初竹谷選手のリザルトを1周送れの40位と発表したが、翌日38位と訂正された。が、cyclingweb.comではいまだ「DNF」になってるぞ。
しかし、アプサロンの乗るBianchiのMTBがめっちゃ格好いい。ついでにこちらはドロドロ血まみれのエルミダ。 (9月2日更新)
順位 | 名前 | 国 | タイム |
---|---|---|---|
1 | Julien Absalon | フランス | 2.15.02 |
2 | Jose Antonio Hermida | スペイン | 1.00 |
3 | Bart Brentjens | オランダ | 2.03 |
4 | Roel Paulissen | ベルギー | 3.08 |
5 | Liam Killeen | イギリス | 3.30 |
6 | Ralph Naef | スイス | 4.13 |
7 | Thomas Frischknecht | スイス | 4.37 |
8 | Manuel Fumic | ドイツ | 5.27 |
9 | Seamus Mcgrath | カナダ | 5.31 |
10 | Marco Bui | イタリア | 5.43 |
38 | 竹谷賢二 | 日本 | -1Laps |