2004 ツール・ド・フランス 第1ステージ

コースプロフィール:
 ツール・ド・フランス第1ステージは、リエージュからシャルルロアまでの202.5km。ツールの序盤は平坦なスプリントステージというイメージがあるが、第1ステージはしょっぱなからアップダウンの連続だ。15、21、33.5km地点に4級の山岳ポイントがあり、ちょこっとフラットな箇所を過ぎたら101.5km地点に3級、107km地点に4級の山岳ポイントが控えている。前半と比べれば後半はおおむねフラットといえるが、それでもまったく平坦な箇所はなく、一筋縄ではいかないコースプロフィールとなっている。今ツール初の山岳ポイントが登場するため、山岳賞ジャージ狙いの選手達が積極的に動いてくることが予想される。
 スプリントポイントは後半に3つ(114.5地点、132.5地点、154.5地点)。ポイント賞ジャージ狙いだけではなく、個人総合でもまだあまり差がついていない(しかも集団ゴールになることが予想される)序盤のステージ、数秒差をひっくり返してマイヨジョーヌをゲットしたい個人総合上位の選手がボーナスタイム獲得のために積極的に狙ってくるだろう。

現地の天候:
 この日の天気は雨模様。しかも気温が低く、ゴール地点は14度ぐらいしかなかったそうだ。個人的には酷暑のレースを期待してるんだけど…。

レースの展開:
 この日はまず4km地点でブリオシュ・ラブランジェールのベネトーがアタックした。これに合流したのがCSCのイェンス・フォイクトとラボバンクのカルステン・クローン。しかしこの逃げは長くは続かず、まもなく集団に吸収された。が、イェンス・フォイクトが再度アタック。パオロ・ベッティーニ(クイックステップ)、ヤネク・トンバック(コフィディス)がまず合流、その後フランク・ルニエ(ブリオシュ・ラブランジェール)、ベルンハルト・アイゼル(エフデジュ)が追いつき、逃げのグループは5人となった。5人は協力して逃げ続け、集団に対して3分ほどのリードを持った。
 あいにくの雨模様のこの日、路面がかなりスリッピーだったようで、落車が相次いだ。ステージ序盤でなんとマリオ・チッポリーニ(ドミナ)とオスカル・セビリャ(フォナック)が落車。2人ともレースに復帰し、まもなく集団に戻ったが、ついてないなぁって感じだ。

 後続の集団の先頭はファッサボルトロ。ファッサが集団をコントロールする映像はジロ・デ・イタリアでも頻繁に見られたが、ジロの時と違うのは、ペタッキを勝たせるためだけでなく、マイヨジョーヌを着たカンチェッラーラを守るためにも働かなければいけないところ。
 逃げの5人を見てみると、個人総合成績が一番いいのはイェンス・フォイクトで、カンチェッラーラから11秒遅れの7位。このまま逃げ切られてはマイヨジョーヌがフォイクトの手に渡ってしまう。というか、ステージ後半にある3つのスプリントポイントをすべてトップ通過なんかされた日には、その後吸収して集団でゴールしたとしても総合成績はひっくり返ってしまう(※スプリントポイントでは、通過順位に応じてポイントが与えられるのと同時に、1位6秒、2位4秒、3位2秒のボーナスポイントをも与えられる)。そのため、この逃げを吸収するための働きをし、その上でさらにゴール前でペタッキを勝たせるための働きをしなければならない。働きっぱなしだ。

 ともあれ最初の山岳ポイントはフォイクト、トンバック、ベッティーニ、2つ目の山岳ポイントはベッティーニ、トンバック、ルニエ、3つ目の山岳ポイントはトンバック、ベッティーニ、ルニエの順で通過。この時点でトンバックが7ポイント、ベッティーニが6ポイントを稼いでいる。

 集団先頭のファッサの後ろにUSポスタル、エウスカルテルあたりが上がって来た。これは総合優勝を狙う選手達を守るための動き。なので集団を引っぱっているのは相変わらずファッサだけだ。

 4番目の山岳ポイント(3級)は、ベッティーニ、トンバック、アイゼル、フォイクトの順で通過。

 ステージ序盤で落車したチッポリーニが集団からちょっと遅れている。もちろんドミナのアシストが数人一緒にいる。…のはいいが、なぜここにマクギー? 背中の下部に痛みがあるとかで、腰のあたりにさかんにストレッチする映像があった。どうもマクギーもステージ序盤の落車に巻き込まれたらしい。
 この頃になっても雨は降り続いていて、逃げのグループで、大集団で、落車、コースアウトが相次いだ。逃げのグループでは、フォイクトがカーブを曲がりきれずにコースアウト。すぐ後ろについていたルニエもつられて突っ込んだ。幸い大事には至らず、2人ともすぐに復帰、先頭の3人にもすぐに追いついた。
 かと思えば後続の集団でコフィディスのフォフォノフ、フォナックの選手が落車した。フォナックの選手はバイクを交換。上にウィンドブレーカーを羽織ってるし、バイクにナンバープレートが付いていないため、誰だか見て取れなかったが、フォナックのアシストが3〜4人戻ってきていたところをみると、有力選手だったのかもしれない。ハミルトンには見えなかったけど…サングラスで隠れててよく見えなかったからなぁ。
 この落車の影響か、折からの強い向かい風のせいか、それとも下りでちぎれたのか、大集団が分裂してしまっている。マヨも後ろの集団にいて、エウスカルテルの選手が前の集団に追いつくべくペースを上げていた。

 先頭5人を一生懸命引いているのはフォイクト。この日最後の山岳ポイントは、ベッティーニ、トンバック、ルニエの順で通過(最初フォイクト、トンバック、ベッティーニとアナウンスされていたが、訂正されたらしい)。結局、ベッティーニ13ポイント、トンバック12ポイントで、山岳賞ジャージはベッティーニの手に渡った。
 そしてその直後、先頭グループのアイゼルがチームカーを運転する監督と話している時に、前を走るトンバックの後輪と接触して落車。ポケットに入ってた補給食?は砕けて飛び散るわ、自転車は飛んでっちゃうわでなかなか激しい落車ではあった。でもアイゼルが倒れこんだ草むらのすぐ左側がガードレース。そこにぶつからなくてよかったね。肘のあたりから血を流しながらもなんとか集団に復帰した。
 でもって逃げのグループの先頭はベッティーニ。直後のスプリントポイントはフォイクトで決まりか。と思ったら、突如アイゼルがアタック。結局、アイゼル、フォイクト、トンバックの順で通過した。アイゼルはカンチェッラーラから24秒遅れの43位。新人賞の対象選手なので、ちょっとでもボーナスポイントを稼いでカンチェッラーラとの差を詰めようという目的だったのか。

 逃げの5人と集団との差が詰まって来た。集団の先頭は相変わらずファッサ。かなり本気で引いている。そして、2つ目のスプリントポイントの手前で集団が5人のすぐ背後に迫る。ベッティーニがまずやめ、次にアイゼルが遅れた。残りの3人は抵抗を試みるが、結局3人とも集団に吸収された。
 そして2つ目のスプリントポイント。ファッサのアシスト3人に囲まれてカンチェラーラが取りに行く。が、4人の後ろにはノルウェーチャンピオンジャージに身を包んだハスホフトが虎視眈々と狙っている。ハスホフトは前日のプロローグでカンチェッラーラから10秒遅れ。ここでカンチェッラーラより前に通過すれば差を数秒詰めることができる。スプリントポイント手前でカンチェッラーラが前に出た。しかしスプリントではハスホフトにはかなわなかった。ハスホフトがカンチェッラーラをかわしてトップ通過。以下、カンチェッラーラ、アイトール・ゴンザレスという順で通過した。ハスホフト6秒、カンチェッラーラ4秒のボーナスタイムを稼ぎ、ハスホフトは総合でのタイム差を2秒詰め、8秒差とした。

 というわけでもう一度ひとつの集団に戻った。と思ったら、オグレディがちょっと遅れている。パンクトラブルで遅れ、チームメイトと一緒に集団に追いつこうとしているところらしい。これとは別に、チッポリーニ、マクギーらも集団に戻ろうと頑張っている。オグレディはすぐに追いつけそう。ちなみにこのオグレディを集団に戻すための動きに、急遽出場が決まり、警察先導でかっ飛ばして来たファラゼイン(詳しくはプロローグリザルトをご覧ください)が加わっていた。仕事してます。
 そんな時、集団の先頭でフォイクトがアタック。ついさっきまで逃げていて吸収されたばかりだっていうのにこの逃げ。思わず「男気あるなぁ」とつぶやいてしまったら、解説の栗村監督も「格好いい 男ですねーなんか」と言っていた。実際この日の敢闘賞はフォイクトだったんだけども、つるりんからも一票あげたい。こんなの、数行でまとめちゃったら絶対入ってこないでしょ。こういうのがあるからやめられないんだよ。サイクルロードレースを見るのは。
 背後ではキルシェン先頭にファッサがスピードを上げる。フォイクトの逃げはあまり長いことは続かなかった。そういえば雨がやんでるみたい。このままもう降らなければいいんだけど。

 残り65kmほどの地点でチッポリーニらが集団に戻った。
 多分選手からは見えなかったと思うんだけど、空中に渡されたロープに方向を示す案内板を真似て「PARIS 3243KM→」みたいなのが掲げられていた。もしも選手に見えていたら、そしてもしも落車したり不調だったりで「先が思いやられる」と思っている選手が目にしたらガックリくるだろうなぁと思った。

 閑話休題。相変わらずよく働くファッサのトレインのすぐ後ろにフォナック、USポスタル、T-Mobile、リバティセグロスあたりが上がって来た。これは総合上位を狙う選手を守るための位置取りだ。
 と思ったら集団の先頭がクレディアグリコル、クイックステップあたりに取って代わられた。あと3〜4kmで最後のスプリントポイントだ。クイックステップが速度を上げる。カンチェラーラもいい位置にいる。一気に上がって来たのはクイックステップのトム・ボーネン。が、左からカンチェッラーラ、右からオグレディが捲り、オグレディがカンチェッラーラにわずかに差をつけてトップ通過した。ボーネンは3番手。バクステット(アレッシオ)も惜しい位置にいたが一歩及ばなかった。

 スプリントポイントを過ぎて集団が落ち着いた瞬間、集団から2名がアタック。ラボバンクのワウテルスとCSCのピール。絶妙のタイミングで飛び出し、いいスピードで逃げているんだが、それだけにピールの背中に入ったウィンドブレーカーがとっても気になる。風も強そうだし、ポイしてあげたい。ちなみにこの2人の中で総合成績がいいのはワウテルスの方。トップから19秒遅れの22位。逃げ切って勝てばマイヨジョーヌの可能性もある。
 2人を追って集団からいくつかのアタックがあった。決まったのはローラン・ブロシャール(AG2R)、バルダート(アレッシオ)、イノー(クレディアグリコル)、ヴォクラー(ブリオシュ)、そしてお目付け役にファッサのブルセギンが加わっている。ブルセギンは先頭交代に加わらない。背後の集団はというと、前に1人送り込んでいるファッサはちょっとお休み。USポスタルあたりが先頭に出ている。USポスタルとしては無理して追う必要もなく、逃げのグループにとっては有利な展開だ。が、後から追った5人は向かい風の影響もあってなかなかリードが広がらず、結局5人は吸収された。
 そして残ったのはワウテルスとピールの2人。集団に対して51秒の差をつけた。…ふと気づいたらピールの背中のウィンドブレーカーがなくなっていた。チームカーにでも預けたのかな。
 残り33kmの地点で2人と集団の差は1分37秒。ちょっとずつリードが広がっている。痺れを切らしたのか、集団の先頭にファッサが出てきて引き始めた。
 残り25km。ロット、クイックステップも先頭交代に加わり始めた。一時は2分ほどに広がっていたタイム差が1分45秒に縮まった。あまり早く捕まえてしまってはまたアタックしようとする選手が出てくるかもしれないので、背後の集団としてはギリギリまで泳がせておきたいところ。ただし、2人とも強力な選手なので、ヘタをすると逃げ切られる可能性もある。集団としてもなかなか難しいところだ。

 集団の後ろに目をやってみると、マクギーが再び遅れ始めている。普段は美しいフォームなのに、上体が揺れていて調子の悪さが見て取れる。集団からオーストラリアのチャンピオンジャージを着たマシュー・ウィルソンが下がってきた。

 2人が10kmのアーチをくぐった。集団とのタイム差は45秒。だいぶ詰まってきている。このままでは逃げ切りは難しいかも。
 残り7〜8kmの地点で集団からアレッシオのユングクビストがアタック。2人と集団の間で宙ぶらりんになる。しばらく単独で逃げたが集団に吸収されてしまった。が、今度はイリェスバレアレスの選手がアタック。これも決定的なものにはならなかったが、集団の速度は思ったほど上がっていないらしい。

 おっと、ここで落車が。フォナックのニコラ・ジャラベール。なんとかバイクにまたがって走り始めた。

 残り2km。集団はすぐ背後に迫っている。左に2回曲がってヘアピンカーブのように折り返したら、残り1.7kmはストレートだ。そしてワウテルスとピールは2つ目のカーブを曲がったあたりで吸収された。あとはストレートを残すのみだ。
 残り1km。ファッサトレインがスピードを上げる。ゲロルシュタイナーのホンド、T-Mobileのツァベルはペタッキのすぐ背後につけている。
 ファッサトレインの右側にクレディアグリコルが上がって来た。先頭はパトリス・アルガンか? 2番手にハスホフトが。ファッサトレインよりスピードがあり、ペタッキもこちらに乗り換えた。この時ペタッキは4〜5番手。
 ハスホフトの前の選手が左によけ、ハスホフトが先頭に出た。必死にもがくが、左側からAG2Rのヤン・キルシプーが捲る。後ろからマキュアンも上がってきて3人ほぼ並んでのゴールとなった。結局混戦を制したのはヤン・キルシプー。自身ツール4度目のステージ優勝を果たした。2位マキュアン、3位ハスホフトという結果となった。
 ペタッキはというと8位でフィニッシュ。ハスホフトが先頭に出た時点でキルシプー、ナゾンに続き4番手につけていたが、この時点でアシストは皆無。伸びないペタッキの右側、柵にはさまれて狭いところをマキュアンが上がっていく。そしてマキュアン、むりくり左に出て、ペタッキを押しのけるような形で前に出た。ペタッキはここで失速。ペタッキをマークしていたホンドが左側から追い上げるが、時すでに遅し。ホンド、ツァベルはペタッキマークに出た策が裏目に出てしまった。
 チッポリーニは同タイムの38位フィニッシュ。遅れて足使ってたからね。そして遅れていたマクギーは、トップから6分5秒遅れでゴールした。

 でもって気になる個人総合。この日スプリントポイントでボーナスポイントを稼ぎ、ゴールポイントも狙いにいったハスホフトとマイヨジョーヌのカンチェッラーラのタイム差は、前日のプロローグ終了時点では10秒。2つ目のスプリントポイントでハスホフト6秒、カンチェッラーラ4秒、3つ目のスプリントポイントでカンチェッラーラが4秒稼いだ。ゴールタイムに関しては2人とも同じ集団で入っているためタイム差はつかず。ただし、3位でゴールしたハスホフトはボーナスタイム8秒を稼いでいる。というわけで、カンチェッラーラがわずかに4秒上回り、マイヨジョーヌを守った。
 惜しくもマイヨジョーヌを逃したハスホフトはポイント賞争いでトップに立ち、マイヨヴェールを手に入れた。  そして今年のツール最初の山岳賞は逃げに加わり積極的に取りに行ったベッティーニがゲット。本人は「でも途中からはヴィランクが着ることになるんだけどね」とコメントしている。

★ステージ優勝
ヤン・キルシプー(AG2R)
★個人総合(マイヨジョーヌ)
ファビアン・カンチェッラーラ(ファッサボルトロ)
★ポイント賞(マイヨヴェール)
トール・ハスホフト(クレディアグリコル)
★山岳賞(マイヨブラン・アポアルージュ)
パオロ・ベッティーニ(クイックステップ)
★新人賞(マイヨブラン)
ファビアン・カンチェッラーラ(ファッサボルトロ)
★チーム総合
USポスタル
★敢闘賞
イェンス・フォイクト(チームCSC)
●ステージ順位
順位名前チームタイム
1ヤン・キルシプーAG2R4.40.29
2ロビー・マキュアンロット・ドモ
3トール・ハスホフトクレディアグリコル
4ダニロ・ホンドゲロルシュタイナー
5ジャンパトリック・ナゾンAG2R
6バーデン・クックエフデジュ
7クルトアスル・アルヴェセンCSC
8アレッサンドロ・ペタッキファッサボルトロ
9エリック・ツァベルT-Mobile
10アラン・デーヴィスリバティセグロス
spacer
●個人総合
順位名前チームタイム
1ファビアン・カンチェッラーラファッサボルトロ4.47.11
2トール・ハスホフトクレディアグリコル0.04
3ランス・アームストロングUSポスタル0.10
4イェンス・フォイクトCSC0.15
5ホセイバン・グティエレスイリェスバレアレス0.16
6オスカル・ペレイロフォナック0.19
7クリストフ・モロークレディアグリコル0.20
8ボビー・ジュリックCSC
9ジョージ・ヒンカピーUSポスタル
10ホセエンリケ・グティエレスフォナック0.22

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