2004 ツール・ド・フランス 第15ステージ

コースプロフィール:
 休息日明けの第15ステージは、バルレアからヴィラー・ド・ランスの180.5km。ついにアルプス突入だ。
 序盤こそ3級2つ(15km地点、38km地点)と緩やかだが、91.5km地点に2級、急坂を下り(下りきったところにスプリントポイントがある意味はなんなんだろう?)127km地点に1級、137km地点に3級、164km地点に2級の山岳ポイントがあり、ラスト2級の山頂ゴールと中盤以降に難易度の高い山岳が待ち受けている。しかも翌日は山岳TT。いろいろ駆け引きが見られる面白いステージとなるだろう。
 スプリントポイントは34km地点と前述の115km地点。
 スタート地点のバルレアは、握りこぶしより大きい黒トリュフが取れるので有名だそうな。思わずこぶしを握ってみたのは私だけか?

現地の天候:
 天気は上々。気温は30度近くまで上がり、午後に雷雨の恐れもという予報だったけど、外れてラッキー。

レースの展開:
 この日、イバン・マヨ(エウスカルテル)、ヤコブ・ピール(CSC)がスタートしなかった。Nacoさんのレポートに休息日のマヨの様子が載っていて、調子はいいと明るい笑顔を見せていたということだったので、アルプスでの活躍を期待していたんだけど…。やっぱり内に秘めるタイプなのね。ピール先輩のリタイヤも残念です。
 そんなこんなで158人でのスタート。

 この日も序盤から積極的なアタックがあった。スタート後5kmほどの地点でトンバック(コフィディス)、ヴィランク(クイックステップ)がアタック。これに数人が加わって集団に対して20秒弱のリードをもったが、上りの手前で一度吸収。続いてアクセル・メルクス(ロット・ドモ)がアタックし、アイトール・ゴンザレス(ファッサボルトロ)、マルコス・セラーノ(リバティセグロス)、ホセエンリケ・グティエレス(フォナック)、サンティアゴ・ボテーロ(T-Mobile)、ウラジミール・カルペツ(イリェスバレアレス)、ジャンシリル・ロバン(エフデジュ)、ダビー・モンクティエ(コフィディス)、ステファン・グベール(AG2R)が加わり、9人での逃げとなった。
 最初の山岳ポイント(15km地点/3級)はメルクス、アイトール・ゴンザレス、セラーノ、ロバンの順で通過。
 18km地点でアンドレアス・クレーデン(T-Mobile)が落車。幸いたいした怪我ではなかったようで、まもなく集団に戻った。
 第1スプリントポイントはロバン、セラーノ、モンクティエ、2つ目の山岳ポイント(38km地点/3級)はメルクス、ボテーロ、グティエレス、カルペツといずれも逃げのグループのまま通過した。
 その後、40km過ぎにフェドリゴ(クレディアグリコル)、フォフォノフ(コフィディス)が加わり11人になったが、USポスタル、ラボバンクあたりが後続集団のペースを引き上げ、逃げのグループはまもなく集団に吸収された。
 というわけで、45km地点ではアームストロングら主要集団、約1分遅れでマキュアン、ヴォクラーらの集団という状況だった。

 50km過ぎにハスホフト(クレディアグリコル)、ブロシャール(AG2R)が集団からアタック。淘汰を繰り返し(USポスタルのパドルノスもいたが呼び戻された)、ハスホフト、ブロシャール、サントス・ゴンザレス(フォナック)、アイトール・ゴンザレス(ファッサ)、フォイクト(CSC)、ガルシアアコスタ(イリェスバレアレス)、オグレディ(コフィディス)、フォフォノフ(コフィディス)、ヴィランク(クイックステップ)、ローラン・デュフォー(クイックステップ)、ヴァンデヴェルデ(リバティセグロス)、シャルトー(ブリオシュ)、サンダーランド(アレッシオ)、ラスムセン(ラボバンク)の14人の逃げとなった。上りを前にハスホフトとオグレディが逃げにいるというのは驚きだが、2級の山岳を過ぎて下りきったところにあるスプリントポイントを狙っての動きだろう。
 背後の集団はというと、遅れていたチームマキュアン(笑)が追いつき、70km地点では14人と大集団、2つのグループの差は約2分という状況だった。

 2級の山岳ポイントに至る上りの途中で、ヴィランク、ラスムセンがアタックし、サントス・ゴンザレス、フォイクト、ブロシャールが反応した。山岳ポイントはヴィランク、ブロシャール、ゴンザレス、ラスムセン、フォイクト、シャルトーの順で通過。ヴィランクが着実にポイントを重ねていっている。
 山岳ポイントを通過した後、この5人に下りでオグレディ、ハスホフト、ガルシアアコスタが追いついた。ここからさらにオグレディがアタック。ハスホフトが後を追った。
 第2スプリントポイントはオグレディが先頭通過。30秒ほど遅れてハスホフト、1分半ほど後ろのグループの先頭はブロシャールの順で通過した。ちなみにブロシャール、ヴィランクらの集団と大集団とのタイム差はこの時点で4分ほどだった。

 そして1級の上りに差し掛かった。単独2番手で逃げていたハスホフトがヴィランクらの集団に吸収された。ハスホフトはこの集団からも遅れ、ラスムセン、ヴィランク、サントス・ゴンザレス、ブロシャール、フォイクトの5名となった2番手集団はやがてオグレディにも追いついた。
 逃げのグループにいたスコット・サンダーランド(アレッシオ)が大集団に吸収された。関係ないが、このスコット・サンダーランド、旦那と誕生日が一緒だ。旦那のが1つ上だが。
 でもってグループアームストロングの背後では、再びチームマキュアンが形成されようとしていた。

 さっきまでUSポスタル一色だった大集団の先頭に動きがあった。T-Mobileが集団の先頭に上がって来た。グエリーニ(T-Mobile)が先頭、ウルリッヒ2番手、その背後にクレーデンがつけている。グエリーニがいいペースで引っぱり、集団後ろでは千切れ始める選手も。グエリーニが下がり、クレーデンが先頭を引く。
 そのあおりを食らって千切れ始めた選手の中にヴォクラーの姿もあった。と思ったら同じグループにイワノフ、アルダーク、ツァベルのT-Mobile3人衆の姿も。なんというか、USポスタルがアームストロングの周りでがっちり固めているのとは対照的だなぁと、これ見て思った。

 なんてなことを思ってる間に、グループアームストロングからウルリッヒがアタック! USポスタルは本気で追いにかからなかった。
 ウルリッヒは単独で逃げ続けた。強い目線で前を見据えて。こんなにアグレッシブでいい表情のウルリッヒを見るのは久々で、それを見ているだけですでに半ベソ状態だったわたくし。めっちゃ男前っすよ、ウルリッヒくん。
 グループアームストロングは先頭のランディスがペースを上げる。マンセボが遅れ始めた。残っているのはランディス、アゼベド、アームストロング(以上USポスタル)、バッソ、サストレ(以上CSC)、クレーデン(T-Mobile)、ボーヘルト(ラボバンク)、サバリアウスカス(サエコ)の8人。一気にここまで絞られてしまった。
 ウルリッヒがハスホフト、シャルトーをパス。そして、その前にいたオグレディ、アイトール・ゴンザレスにも追いついた。アイトールがなんとか食らいつく。
 その頃先頭はヴィランクとラスムセンの2人になっていた。ちょっと離れてフォイクトとブロシャールという状況。
 ウルリッヒがガルシアアコスタ、サントス・ゴンザレスに追いついた。必死で食らいついていたアイトール・ゴンザレスもこの直前に千切れてまた単独になっていた。2人をパスしがてら首で「ついて来られるもんならついて来い」とばかりに合図。こんなウルリッヒ見たことない。逃げてた選手に比べれば足がフレッシュというのはあるにせよ、このペースは驚異的だ。ガルシアアコスタはしばらくして脱落。サントス・ゴンザレスのみがついていった。

 先頭の2人が1級の山頂に到達した。ヴィランク、ラスムセン、ちょっと離れてブロシャール、フォイクトの順で通過。映像では次にウルリッヒの山頂通過が映っていたが、この前にヴァンデヴェルデが通過していたらしい。ウルリッヒ、サントス・ゴンザレス、先に千切れたガルシアアコスタまでが山岳ポイントをゲットした。
 オグレディはグループアームストロングについて行ってるんだな。たいしたもんだ。グループアームストロングも山頂を通過。ヴィランク、ラスムセンとは2分40秒ほどの差だ。
 ウルリッヒ、サントス・ゴンザレスはヴァンデヴェルデをパス。ヴァンデヴェルデも後についていった。

 その頃、ラスムセン、ヴィランクの後ろ、2番手にいたフォイクトは、完全に踏むのをやめて背後を待つ動きをした。ウルリッヒを待つのかと思ったら、ウルリッヒがパスするのを黙って見送った。バッソのアシストに戻るということか。もう明らかにうーねうーねと蛇行しつつ、カメラバイクに向かって何か言ったりしている。この後の引きを見ても明らかなように、足はかなり残っていた。このまま逃げ続けていたら、もしかしたらステージ優勝も見えたかもしれない。ウルリッヒが同じドイツ人だということも含め、集団に戻ってウルリッヒをつぶすための動きをすることは本人としても本意ではなかったんじゃないかなぁと。翌日の山岳TTでもドイツ人サポーターからかなり罵声を浴びせられたようだけど、チームオーダーなんだからしゃーない。本人も「そりゃランスが勝つよりウルリッヒが勝つのを見たい。でもチームオーダーだからしょうがないよね。アテネではウルリッヒのために死ぬ気で働くよ」とコメント。ちなみにウルリッヒも自身の日記で「フォイクトはすべきことをしただけ。彼を非難するのは間違っている」といったコメントを出している。
 ともあれ、フォイクトはグループアームストロングに合流。先頭で猛烈に引っぱり始めた。

 ウルリッヒ、サントス・ゴンザレスがブロシャールに追いつき、3人で前の2人を追走し始めた。
 3級の山岳ポイントはヴィランク、ラスムセンの順で通過。ウルリッヒ、サントス・ゴンザレスまでがポイントを取った。
 グループアームストロングでは相変わらずフォイクトが引きまくっている。なんかこの足もったいないと思ってしまう。
 グループマイヨジョーヌは前からアシストが落ちてきたり、背後から遅れていた選手が追いついたりして人数がかなり増えている。

 残り20kmほどの地点で、ウルリッヒ、ブロシャール、サントス・ゴンザレスの3人がグループアームストロングに吸収された。残るはヴィランクとラスムセンのみ。2人からグループアームストロングまでが50秒弱、グループアームストロングからグループマイヨジョーヌまでは5分強という状況だ。

 ヴィランク、ラスムセンに追いつくかといったところで、グループアームストロングからライプハイマー(ラボバンク)がアタック。前の2人に追いついた。ラボバンク2人+ヴィランクという構図だが、ここまで足を使って来たラスムセン、2人についていくことができない。
 グループアームストロングでは、サストレが先頭に出た。ブロシャール、フォイクトが千切れ始めた。
 そして残り20kmといったあたりでまずヴィランクが、続いてライプハイマーもグループアームストロングに吸収された。この時点でグループアームストロングに残っていたのは、アゼベド、アームストロング、ウルリッヒ、クレーデン、バッソ、サストレ+吸収されたばかりのヴィランク、ライプハイマー。

 2級の山岳ポイントは、ヴィランク、アゼベド、サストレ、バッソ、アームストロング、ウルリッヒの順で通過。残り16.5kmとなった。
 下り基調の箇所で千切れていたフォイクト、ラスムセンがグループアームストロングに戻った。そして、残り10kmを切ったあたりで、ラスムセンが集団からアタック。しかしこの逃げはすぐにつぶされた。集団の先頭はフォイクト、サストレ。フォイクトが歯を食いしばりながら引いている。

 ラスト2級の上りに差し掛かった。フォイクト、サストレが下がり、集団からも遅れ始めた。アゼベドが千切れ、ラスムセン、ヴィランクもついていかれない。残ったのはクレーデン、ウルリッヒ、バッソ、アームストロング、ライプハイマーの5人だ。

 そして残り1km。ライプハイマーがキツそう。そして残ったのはクレーデンウルリッヒアームストロングバッソの4名だけだった。
 クレーデンが懸命に先頭を引く。クレーデンがウルリッヒの方を振り返ったその時、バッソが行った! すぐにアームストロングも反応。アームストロングがバッソをかわし、アームストロング先行のまま左カーブを曲がった。ウルリッヒはちょっと遅れて3番手。ラストのゆるい右カーブもアームストロング先行のまま入り、そのまま二の腕がプルプルするほど(贅肉ないからプルプルしないか)派手なガッツポーズでゴール。ランス・アームストロングが今ツール2勝目を飾った。

 ウルリッヒはこのステージをかなり狙っていたようで、ステージ優勝を逃し、ぶすっと無言のままさっさと撤収してしまった。11位のブロシャールがゴールした時にはすでに坂を下ろうとしていたぐらい。まぁ狙いにいくと事前に打ち合わせてあってのクレーデンの引きだったのかもしれないけど、解説陣がコメントしていたようにスプリントだけでいえばクレーデンの方があっただろうし、しかも単独で逃げて足を使ったウルリッヒに勝たせようとするのはちょっと無理があったんじゃないだろうか。それともあの状況ではウルリッヒに勝たせるのが暗黙のルールってヤツだったんだろうか。結局アームストロングがプレゼントをせず自ら力づくで勝利をもぎ取ってしまったんだけど。
 ともあれ、リスクを恐れず果敢に攻めたウルリッヒに拍手を送りたい。この表情、めっちゃ男前です。
 チームCSCの判断については意見の分かれるところだろうと思う。もしも「アームストロングが弱みを見せたらアタックする」なんてことを言わずにバッソがアタックしてかき回していたら、また別の結果が見えたかもしれない。だけど、まぁ最終的にクレーデンに抜かれて3位で表彰台に上がったことを考えると、ここで2位を守る動きをしたこともあながち間違いではなかったと言うこともできると思う。個人的にはちょっと残念だったけどね。

 さて他方のマイヨジョーヌを着たヴォクラーはというと、ランス・アームストロングから9分30秒遅れでゴール。10日間守ったマイヨジョーヌは失ったが、マイヨブランは守った。

★ステージ優勝
ランス・アームストロング(USポスタル)
★個人総合(マイヨジョーヌ)
ランス・アームストロング(USポスタル)
★ポイント賞(マイヨヴェール)
ロビー・マキュアン(ロット・ドモ)
★山岳賞(マイヨブラン・アポアルージュ)
リシャール・ヴィランク(クイックステップ)
★新人賞(マイヨブラン)
トマ・ヴォクラー(ブリオシュ・ラブランジェール)
★チーム総合
チームCSC
★敢闘賞
ミカエル・ラスムセン(ラボバンク)
●ステージ順位
順位名前チームタイム
1ランス・アームストロングUSポスタル4.40.30
2イヴァン・バッソチームCSC
3ヤン・ウルリッヒT-Mobile0.03
4アンドレアス・クレーデンT-Mobile0.06
5リーヴァイ・ライプハイマーラボバンク0.13
6リシャール・ヴィランククイックステップ0.48
7ミカエル・ラスムセンラボバンク0.49
8ホセ・アゼベドUSポスタル0.53
9イェンス・フォイクトチームCSC1.04
10カルロス・サストレチームCSC1.24
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●個人総合
順位名前チームタイム
1ランス・アームストロングUSポスタル67.13.43
2イヴァン・バッソチームCSC1.25
3アンドレアス・クレーデンT-Mobile3.22
4フランシスコ・マンセボイリェスバレアレス5.39
5ヤン・ウルリッヒT-Mobile6.54
6ホセ・アゼベドUSポスタル7.34
7ゲオルグ・トーチュニヒゲロルシュタイナー8.19
8トマ・ヴォクラーブリオシュ・ラブランジェール9.28
9ピエトロ・カウッキョーリアレッシオ・ビアンキ10.10
10リーヴァイ・ライプハイマーラボバンク10.58

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