2004 ツール・ド・フランス 第5ステージ

コースプロフィール:
 ワーテルローからワスクアルまでの210km。70km地点に4級の山岳ポイントがあるが、これ以外はまぁ細かなアップダウンといった感じ。スプリントポイントは57.5km地点、142km地点、180.5km地点の3ヶ所。

現地の天候:
 雨が降ったりやんだり。時折地面にくっきり影が映ってるかと思ったら、また急に雨が降ってきたりなんかして。しかも風が強くてとても寒かったらしい。

レースの展開:
 第4ステージでエディ・セニュール(R.A.G.T.)がタイムアウトとなり、183人でのスタートとなった。

 チームタイムトライアル明けのこの日、16km地点で地元出身のサンディ・カザル(エフデジュ)がアタック。ヤコブ・ピール(CSC)、スチュアート・オグレディ(コフィディス)、マグヌス・バクステット(アレッシオ)、そしてフランスチャンピオンジャージを身に着けたトマ・ヴォクラー(ブリオシュ・ラブランジェール)がこれに加わり5人での逃げとなった。

 先に言い訳しておくならば、ここで「ヴォクラー」と表記した選手、J SPORTSの中継およびエントリーリストでは「トーマス・ボエックラー」、CyclingWeb.jpでは「トマ・ボクレ」、CYCLE SPORTS誌では「トーマ・ボクラー」、東京中日スポーツでは「ボクレール」(私が見た「ボクーレル」ってのは誤植だったらしい。見出しに誤植があるとは思わないからしばらく気づかなかったよ(^^;)と表記されている。フランス人で「ボエックラー」ってのはなさげな気がするのでとりあえず「ボクレ」にしてみたものの、なんかこれも違いそう。Saschaさんいわく「『ボエックレール(ちと巻いてる)』が近い感じ」とのこと。あれこれ考え合わせた上で「ヴォクラー」で統一することにしました。のでJ SPORTSなどとは表記が異なりますが気にしないでください(気になるか(笑))。

 閑話休題。後続の集団は5人の逃げを容認。あっという間に10分以上のタイム差をつけた。

 落車続きの今年のツール。実はこの日も逃げが決まる前に落車があった。落車したのはCSCのサストレとT-Mobileのアルダーク。中央分離帯に乗り上げての落車だった。2人ともすぐにレースに復帰したからよかったけど、落車多すぎ。もういい加減勘弁してもらいたい。代わりに厄払いでもしてもらいに行ってこようかなと思ってしまう。

 この日積極的にスプリントポイントを狙いに行ったのはオグレディ。57.5km地点、142km地点、180.5km地点の3ヶ所のスプリントポイントはいずれもオグレディがトップ通過した。ちなみに2位以下は、1つ目がバクステット、ピール、2つ目はバクステット、ヴォクラー、3つ目はカザル、ピールの順で通過している。

 5人のリードはますます広がった。そして90kmの地点でそのタイム差は16分以上にまで広がっていた。5人の中でもっとも個人総合成績がよかったのがブリオシュ・ラブランジェールのヴォクラー。マイヨジョーヌのランス・アームストロングから3分遅れの59位だ。なのでこの時点ではバーチャルなマイヨジョーヌ。後で聞いた話では(って私が聞いたんじゃないが)、アームストロングが一度リーダージャージを手放したいというようなことを言っていたんだそうだ。それを知ったヴォクラーがレース前のミーティングで「今日は行くよ」と宣言して逃げに乗ったとのこと。とはいえ、言うのは簡単だが、それを実現するのは並大抵のことじゃない。気概のある走りを見せた若いフランス人選手の活躍に、フランス国内も盛り上がったんじゃないかな。

 この後、後続の集団にいたマクギーがパンクで遅れた。背中の下部の痛みで苦しんでいたマクギーにとってこれはアンラッキーな出来事。集団に追いつこうと頑張ったが、それがダメージとなったんだろう。残り65kmほどの地点でリタイヤした。ジロで新たな可能性も見せてくれたマクギーだけに、山岳ステージでの走りが見たかった。でも無理してオリンピックに出場できなくなってしまってもいけないし、残念だけどしょうがないよね。

 と思ったら100kmを過ぎたあたりでまたも落車発生。集団の前の方で起こった落車で、ペタッキ(ファッサ)、ビシオソ、エラス(リバティセグロス)、アゼベド、ベルトラン、ルビエラ(USポスタル)、ボーヘルト(ラボバンク)らが巻き込まれた。うつぶせに倒れていたペタッキは地面に叩きつけられて肩を強打。レースに復帰はしたものの、かなり痛そうだった。ベルトランは腕に、ルビエラはふくらはぎに裂傷を負ったそう。
 そんなこんなの落車の発生で集団のペースが落ち、逃げの5人のリードは17分にまで広がった。これで5人の逃げ切りはほぼ決定的となった。
 落車話ついでに触れておくならば、この後フォナックのグティエレスが巻き込まれた落車があったり、カーブでコースアウトしそうになって落車した選手につられて数人が落車、おまけに濡れた路面が異様に滑り、ブレーキをかけた選手がつるつる滑って落車するといったシーンがあったり、かと思えば集団の真ん中ヘン(ってホントに真ん中。前後だけじゃなくて左右も真ん中)で落車があって、ドミノ倒しのようにパタパタ倒れていくシーンがあったり…ホントにもう勘弁してって感じです。最後のは風が強くて集団の速度が落ちたからかな。でもなんとなく集中力も欠いている感があった。なんだかねー。

 そして残り10km。大粒の雨と強い風の中、まず動いたのはバクステット。しかしあまりリードを広げられず、4人が追いついた。そして追い抜きざまにヴォクラーがカウンターアタック。しかしこの逃げも決まらず。
 以降はアタック合戦の様相に。互いに様子を見つつ、タイミングを見計らってはかわるがわるアタックする。ここに加わっていなかったのがカザル。アタックしそうな選手の様子を伺いつつ足をためていそうな様子だった。反対に5人の中でもっとも積極的に動いていたのはヴォクラーだった。私がチェックできただけでも10回近くアタックしてた。
 残り1kmのマークの手前、オグレディがアタック。ピール、ヴォクラーが追うが、差が開いていく。このまま決まってしまうのかと思ったら、ヴォクラーとピールの2人が追いついた。3人で牽制しつつゴールまで行くかと思えばさにあらず。遅れていたカザル、バクステットも追いついて、もう一度5人に戻った。
 そしてゴール手前のストレートへ。もう足がないのは明らかなのに、ここでバクステットが先行(翌第6ステージ解説の栗村監督は「やけくそ先行」と表現していた(笑)。かと思えばcyclingnews.comのテキストライブでは「競輪モーターバイクの役割を果たした」と形容)。先頭で引いていたバクステットの左側からカザルが行った。が、右からオグレディがぶち抜いた。この距離でのスプリント勝負となったらなんといってもオグレディに分がある。ピールがスリップストリームに入ったが、足はいっぱいいっぱい。そのままかわされることなくスチュアート・オグレディがステージ優勝。両手を高々と挙げてのゴールだった。以下、ピール、カザル、ヴォクラー、バクステットの順でゴールした。雨と強風の中、185kmにも及ぶ逃げだった。

 背後の集団はというと、5人から12分以上遅れて到着した。ゴール前のカーブを立ち上がったところで先行していたのはゲロルシュタイナーのハーゼルバッハー。しかし、後ろにいるはずのホンドの姿がない。ハーゼルバッハーは失速。混戦の集団ゴールを制したのはロビー・マキュアンだった。

 ということで、マイヨジョーヌはランス・アームストロングからトマ・ヴォクラーの手に渡った。ヴォクラーはフランスチャンピオン。母国のチャンピオンジャージの上にマイヨジョーヌとマイヨブラン(1979年生まれの25歳。ついこの間誕生日を迎えたばかり)を着て、今まで生きてきた中で一番嬉しい瞬間だっただろう。落車続きで大荒れのツールだけれど、そのまますんなりゴールしても(ちょっとぐらい遅れても)マイヨジョーヌは決まりだったのに、それでも果敢にアタックする姿を見てすがすがしい気持ちになった。5人の駆け引きも見ごたえがあったし、このステージは保存物かな。
 でもってとてもキュートなヴォクラー。一緒にいるのはベルナール・イノー氏。どうでもいいが、「Hinault」で「イノー」ってどうしても読めない。

★ステージ優勝
トマ・ヴォクラー(ブリオシュ・ラブランジェール)
★個人総合(マイヨジョーヌ)
トマ・ヴォクラー(ブリオシュ・ラブランジェール)
★ポイント賞(マイヨヴェール)
ロビー・マキュアン(ロット・ドモ)
★山岳賞(マイヨブラン・アポアルージュ)
パオロ・ベッティーニ(クイックステップ)
★新人賞(マイヨブラン)
トマ・ヴォクラー(ブリオシュ・ラブランジェール)
★チーム総合
チームCSC
★敢闘賞
サンディ・カザル(エフデジュ・プワンコム)
●ステージ順位
順位名前チームタイム
1スチュアート・オグレディコフィディス5.05.58
2ヤコブ・ピールCSC
3サンディ・カザルエフデジュ
4トマ・ヴォクラーブリオシュ・ラブランジェール
5マグヌス・バクステットアレッシオ
6ロビー・マキュアンロット・ドモ12.33
7ヤネク・トンバックコフィディス
8トール・ハスホフトクレディアグリコル
9レネ・ハーゼルバッハーゲロルシュタイナー
10ジャンパトリック・ナゾンAG2R
spacer
●個人総合
順位名前チームタイム
1トマ・ヴォクラーブリオシュ・ラブランジェール20.03.49
2スチュアート・オグレディコフィディス3.13
3サンディ・カザルエフデジュ4.06
4マグヌス・バクステットアレッシオ6.06
5ヤコブ・ピールCSC6.58
6ランス・アームストロングUSポスタル9.35
7ジョージ・ヒンカピーUSポスタル9.45
8フロイド・ランディスUSポスタル9.51
9ホセ・アゼベドUSポスタル9.57
10ホセルイス・ルビエラUSポスタル9.59

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